宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)![]() | 宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)![]() |
「フェルマーの最終定理」「暗号解読」の2作品で、問題に携わる学者や技術者の人間ドラマと、問題自体の専門的内容との2つを、高度なレベルで融合させて描写する力量を実証済みの著者が、宇宙の成立ちの謎とそれに挑む科学者たちをテーマに挑んだ、すばらしいノンフィクション。
「フェルマーの最終定理」も「暗号解読」もとても楽しく読むことができたので、「宇宙創成」の文庫化も非常に楽しみにしていた(単行本は買わないことにしているので)。いざ読み始めてみると、期待以上の内容で、読み終わるのが惜しいと思うほどであった。
彼の作品が特にすばらしいと思うのは、前もってそのテーマについてある程度知識があったとしても、さらに楽しめるということである。これは彼の作品が他の啓蒙書などとは一線を画す、ワンアンドオンリーの作品であることを意味する。
例えば、普通理系の人間ならば、フェルマーの最終定理について、暗号について、または宇宙論について、何冊かの本は読んだことがあるはずである。そのような場合、さらにそれらの啓蒙書を読むとすると、そんなことはもう知ってるよ、と退屈してしまうようなことはよくある。しかしサイモン・シンの著作でそのような気分を味わうことはほとんどないといってよい。特に今回「宇宙創成」を読むに当たって、単なる偶然だが昨年末に岩波新書から出たこれもすばらしい本「宇宙論入門」(佐藤勝彦著)を読んだばかりにもかかわらず、である。
続きを読む