売り場を捜すと、掛布団カバーや敷布団カバーというのはあるのですが、シーツは見当たりません。そこで店員さんに聞いてみることにしました。声をかけた店員さんは、担当の人を呼んでくれました。
担当の店員さんが来たので、「シーツはありますか」と聞きました。するとその人は「そちらです」と指し示しました。その方を見ると、敷布団カバーが並んでいます。私はちょっと躊躇して、「こ、これはシーツではないですよね」と言いました。すると店員さんは「ボックス型のことですか?」と言いました。ボックス型? シーツにボックス型ってあるのか? 私は混乱しました。シーツって布一枚だろう普通。いや、ふとんの角に引っ掛けるタイプも見たことがある。いや、しかしどちらにしてもシーツならいいのだ。でもここにあるのは敷布団カバーと書かれている。店員さんの顔をちらっと見ると、困ったような表情をしている。私は何と聞いていいかわからなくなり、「あの、ふとんに敷くシーツなんですけど…」というと、店員さんも「ええ…」と不思議そうな顔でこちらを見ている。私はすっかり舞い上がってしまいました。私の知っているシーツというものを、彼女は知らないのだろうか。もしかして、我が家で普通に使っていたシーツというものは、ほかの家庭では使っていないのだろうか。私の信じているシーツというものは、この世の中に存在していないのか? 頭の中をいろいろな考えが巡り、言葉を発せない私に、店員さんは「本店においてあるのはこれだけですが、よろしいでしょうか?」とのたまった。私はただ「あ、あ、わかりました」と言ってその場から逃げるように立ち去ることしかできませんでした。
その後、残りの買い物をうつろな思いで済ませて、店を出てしばらくすると、ようやく気持ちが落ち着いてきました。シーツはこの世の中に存在しているのか。私自身シーツを購入したことがある。また、旅館に泊まったことを思い出そう。仲居さんが敷いてくれる布団。敷布団には白いカバーが掛かっていて、そのうえにシーツを敷いていたはず。うん、シーツは存在する。いやまてよ、カバーをしていない布団にシーツを敷く旅館もあったかな? むむ、もしかして、敷布団カバーとシーツは、どちらか一方をすればいいのか? だから店員さんは敷布団カバーを指し示したのか? 確かに私の母はきれい好きで洗濯好きだった。だから両方使っていたのか? 我が家が余分なことをしていたのか?
家に帰ってネットでつらつら調べてみると、多くの人がシーツと敷布団カバーを両方使っている一方、敷布団カバーだけの人、シーツだけの人が結構いるらしいと知って、驚きました。きれい好きの母は、洗濯できない布団が汚れることをとても気にしていて、晴れればたいてい布団を外に干していたし、シーツだけでなく敷布団カバーも頻繁に洗っていました。
そうわかってくると、今度はあのような対応をされた店員さんに対して、腹が立ってきました。シーツというものを全く知らないならともかく、おそらくそうでないとすれば、あの対応はないだろう。少なくとも、私が知る、お客様に対する対応ではない。とはいうものの、敷布団カバー、掛布団カバー、枕カバーの3点セットでずいぶん安いのがあったな。カバーも大分よれているし、あれを買って、シーツは別の店で探そう、と考えて、どうにか心の平静を取り戻したのでした。