日本の自動車業界は、ガソリンエンジン車からハイブリッド車、そして電気自動車、燃料電池車へのシフトが順番に、ゆっくり起こっていくと考えていたようだが、今回の金融危機と経済危機で、そのシナリオは大きく変わったといっていい。アメリカの自動車業界はすでに死に体であり、チャプター11の適用も目前である。今まで、大きな労働者団体と債権者団体が足かせになり、前にも後ろにも進めないような状態になっていたが、もし今回破産処理されるようなことになれば、失業者増大などの痛みは伴うが、自動車業界におけるメインプレイヤー交代という大きなチャンスが生まれる。
テスラ・ロードスターは、車体はロータス「エリーゼ」をほぼそのまま用いて、そこにモーターとバッテリーを取り付ける、比較的簡単な構造である。バッテリーは、ラップトップPC用バッテリーを6831個搭載したもので、テスラ・モーターズは「シリコンバレーの技術によって成立した」と述べている。つまり、今後の自動車は、デトロイトからシリコンバレーに急激にサプライヤーが転換する可能性が高い。
さらに、従来の自動車が約3万点の部品から成り立っているのに対し、電気自動車の部品点数はその1/3だという。つまり電気自動車は構造がより簡単になり、これは従来の自動車よりも新規参入が容易になることを意味する。シリコンバレーのような競争の激しいコミュニティで電気自動車がブラッシュアップされることにより、安価で高品質の電気自動車が一気に立ち上がる可能性があるのだ。
これに対し、ハイブリッド車で高い技術をもつ日本メーカーは、さらなる電気自動車に急激にシフトするインセンティブが小さい。シリコンバレー発で電気自動車が急速に立ち上がったとき、日本メーカーが立ち遅れる可能性もまた大きいであろう。果たして日本メーカーは、準備ができているだろうか。