2009年04月20日

「見抜く力」 平井伯昌 著 幻冬社新書 2008年11月発行

見抜く力―夢を叶えるコーチング (幻冬舎新書)見抜く力―夢を叶えるコーチング (幻冬舎新書)
平井 伯昌

幻冬舎 2008-11
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オリンピック競泳平泳ぎの金メダリスト北島康介選手のコーチとして有名な平井伯昌氏が、自身のコーチングに対するポリシーについて語った本。

平井氏については、北京オリンピックのあと、いくつかのテレビドキュメンタリーで取り上げられたりしており、それらを見てある程度知ったつもりになっていたが、1時間程度のテレビ番組と書籍とでは、やはり情報量、密度は全く異なる。最近の新書では、スポーツ選手や棋士、タレントなどの口述筆記と思われる本が多く出版されており、果たして購入する価値があるのかな、と逡巡する場合も多いが、やはり一流の人の言葉には何かしら感心する場合も多いので、自分が関心をもっている人の場合は購入することにしている。本書も、購入するまでちょっと迷ったことは否定しないが、結果としてはso soといったところか。

北島選手と平井氏との関係については、「北島選手がすごいだけでは」という素朴な疑問が浮かぶが、客観的な事実を見れば、単純にそれだけではないことがわかる。例えば、先日競泳の日本選手権が行なわれたが、その女子背泳ぎで、50m、100m、200mの3種目をすべて自己ベスト記録で制した寺川綾選手。彼女は昨年の北京オリンピックの出場権をかけた試合で惨敗し、もしかして引退、と心配されたが、コーチを平井氏に変えて今回の復活に至ったのだという。実は、北京オリンピックで2大会連続銅メダルを獲得した中村礼子選手も平井氏に師事してから結果を残すようになっている。

本書では、北島選手、中村選手、そして女子自由形のホープ上田春佳選手という、全くタイプの異なる3選手をいかにコーチするか、を通じて、水泳コーチの何たるかについて述べていく。コミュニケーション、特に、どんな言葉を、いつかけるか、に非常に注意を払っているようである。アスリートが進化していくには基本的なフィジカルももちろん必要であるが、技術の上達は本人の中の感覚が大きな部分を占める。これを言葉で表す、つまり言語化するのが困難であるため、コーチから選手への技術の伝達は困難である。平井氏は、自分が一流選手でなかったことが、コーチとしての利点ではないかと言う。もし自分が一流選手であり、ある技術についての感覚をかつて持っていた場合、コーチとして選手に接する際、その感覚をどうにかして伝えようとするかもしれない。しかし感覚は個人個人異なるものであり、結局自分で獲得するしかない。平井氏はそもそもそのような感覚をもっていないので、自分の経験にとらわれず、選手自身がそれを獲得するにはどうしたらよいかを考えているという。

その他にも、選手の育成についてよく聞くような話が、平井氏の実践にもとづいて語られているが、一つ面白いと思ったのが、「同じ成功を繰り返さない」ということばだ。これは織田信長も気をつけていたことばだという。ビジネスの場合、成功する方法を見つけたらそれをN倍化せよ、などとよくいわれるが、このことばはそれよりもさらに先をめざすものだ。すなわち、同じ方法では同じ程度の成功しか得られない。さらに進歩するためには、別の方法を取らねばならない、ということである。これはかなり実行するのが難しい、志の高い姿勢だと思う。


posted by beverlyglen2190 at 18:36 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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