2009年05月12日

「日本サッカー偏差値52」 杉山茂樹著 じっぴコンパクト 2009年3月発行

日本サッカー偏差値52 (じっぴコンパクト)日本サッカー偏差値52 (じっぴコンパクト)
杉山 茂樹

実業之日本社 2009-03-19
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普段から日本サッカーについて辛口の評論で知られるスポーツジャーナリストの著者が、世界のサッカーに対する日本サッカーの評価を、偏差値を使って表したユニークな書。
じっぴコンパクトとは実業之日本社が発行している新書シリーズで、本書はその33巻目。サイズは通常の新書よりちょっと大きく、講談社ブルーバックスとほぼ同サイズのものである。

著者はかつて1年のうち200日以上を海外特に欧州でのサッカー取材・観戦に費やしていたことで有名であり、その知見は日本のスポーツジャーナリズム界では非常に貴重なものである。昨年上梓された「4-2-3-1 サッカーを戦術から理解する」(光文社新書)は、それまできちんとした資料のなかった現代サッカーの戦術、フォーメーションについて書かれたすばらしい著作であった。ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグなどで時代のエポックとなった試合について、どのような戦術・フォーメーションが使われたか、そして試合中の戦況の変化に対してどのような変更が行なわれたか、が考察され、そして実際指揮した監督にインタビューして確認するなど、まさに現代サッカーはこのようにして考えられ行なわれているのだということがわかる労作であった。

そして今回、日本サッカーを憂える著者が行なったのは、世界の各チームの実力を偏差値で表すことによって、日本サッカーの現状を表現しようという試みであった。一般に、何かの物事の評価を偏差値で表す、というのは、あまり歓迎されないと思う。受験戦争で明らかなように、他のもろもろ大事なことをそぎ落としてしまって全体を正当に評価しない、という印象が偏差値にはある。が、逆に言うと、著者はそのような欠点が目に入らないほど、日本サッカーの現状、そしてその報じられ方の現状に危機感を抱いている、ともいえる。

本書の前半では、まず世界の強豪各国について語られる。ブラジルがサッカー偏差値70、次いでアルゼンチン68、スペイン64、ドイツ63、オランダ、ポルトガルの62と続く。各国の評価に関しては、著者の豊富な取材経験からの知識が披露される。各国評価の最後には、その国の国土面積や人口その他の諸元とともに、ちょっとしたデータも示され、楽しめる。
そして後半では、日本について、戦術、監督、選手、メディア、など日本サッカーを構成する各要素について世界と比較して評価が行なわれ、その結果として、本書のタイトルにあるように偏差値52であることが示される。

本書に書かれていることは、個人的にはほとんどが納得できる内容だ。世界各国について書かれていることも、日本について書かれていることも、ほとんどが、そうそう、そうなんだよねー、そういうとこがダメなんだよ、と思うことばかりだ。ところが、読み進めていくうちに、どうも苦しくなってきてしまう。特に、日本サッカーについての苦言が続く後半になると、どうもいけない。短い文章で、批判的な内容が、連打される、というのは、やはり読んでいて楽しいものではない。

批判的な内容は、えてして読み手の心を閉ざしてしまいがちである。したがって、このような内容をより多くの人々に納得してもらうには、ただ否定的な内容を書き連ねるのではなく、もっと工夫が必要なのではないだろうか。
その一つとしては、なるべく論理的、定量的な表現にすること。サッカー偏差値などそもそも存在しないのだから、その決定は著者の主観とならざるをえない。しかしながら、ここで大切なのは、著者自身の中ではその決定に際しての評価基準が明確になっており、ある程度論理的に導かれていること、それがしっかりと表現されていることだと思う。この点が本書では十分ではないと感じた。

また、せっかく偏差値すなわち受験戦争の武器を借用するという荒技を使うのなら、他の武器の助けも借りたらどうか。それは、例えば「チャート式」であり、例えば「傾向と対策」だ。
各節で述べられた内容を、最後に「チャート式」にまとめて表現すれば、論理の展開が明確になるし、著者が重要視している項目もはっきりわかる。また、本書は「傾向」についてはたくさん書かれているが「対策」についてはほとんど明示されていない。世界の標準と違うから、世界の標準に合わせよう、というのは「対策」とはいえない。サッカーは単なる娯楽であるから、欧州のサッカーが現在のような姿であるのは、欧州の社会の成り立ちを反映しているのだと考えられる。つまりサッカーの姿は単なる結果である。とすれば、日本サッカーを世界標準に近づけるには、日本社会を変えなければならない。そうすべきなのか。そんなことができるのか。いやそもそも、そんなことをしなくても、日本の社会の成り立ちを反映した、日本サッカーというものがありえるのではないか。例えばこのような考察が成されていれば、本書はより受け入れられやすいものになるのではないだろうか。

いずれにしても、本書は日本サッカーの現状について的確な指摘が多々されており、サッカーを愛するものにとっては必携の書である。そして、本書をたたき台として、日本サッカーの「対策」について多くの人たちが語ることによって、日本サッカーの進歩につながっていくと思う。
4‐2‐3‐1―サッカーを戦術から理解する (光文社新書)4‐2‐3‐1―サッカーを戦術から理解する (光文社新書)
杉山 茂樹

光文社 2008-03
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posted by beverlyglen2190 at 19:24 | Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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