世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜 (COSMO BOOKS) コスミック出版 2010-02-06 売り上げランキング : 387 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
サッカー日本代表・岡田ジャパンの今までの試合を、イタリアの5人の監督が、イタリアひいてはヨーロッパでベースとなっている戦術特に守備戦術を元に分析した、おそらく今まで例のない本。サッカーファンなら間違いなく楽しめる著作である。
ヨーロッパサッカーの戦術の大きな流れとしては、1970年代半ばのオランダのトータルフットボールを起源として、1980年代末から90年代初頭にかけてイタリア・ACミランでアリゴ・サッキ監督によって確立したプレッシングサッカーが現在も主流となっており、リーグ、チーム、監督によってシステムを微調整しながら、より効果的なプレッシングサッカーを模索している、と言えるだろう。つまり、イタリアは現在の最新のサッカー戦術の発祥地であると言えるわけで、そこでの監督経験のある戦術家たちにとって岡田ジャパンのサッカーがどう映るかというのは、大変興味深い。
分析対象のゲームとしては、2008年10月15日のワールドカップ予選ウズベキスタン戦から、2009年9月のオランダ遠征でのオランダ戦、ガーナ戦までに及ぶが、5人の監督は、この1年に渡る数々の日本代表の試合を分析した上で、ほぼ共通した指摘をしている。それらを抜き出してみると以下のようになる:
(1)相手ボールに対する守備の場面で、まず敵のボール保持者に対し一人の守備者がアプローチすると同時に、その両隣の守備者は下がって、ボールを頂点に斜めのラインを作るようにポジションをとるべき(これをイタリアではディアゴナーレ(対角線)と呼ぶ)だが、これが多くの場面で守られていない
(2)相手バックラインのボール回しに対してFWが数的不利にもかかわらず無謀で無駄なチェイスを仕掛けている
(3)センターライン付近でのまだ危機的でない相手のポゼッションに対して、守備的MFがわざわざ自分のポジションを空けてボールを取りに行き、簡単にかわされて自らピンチを作り出している
(4)これらの場面は、まだ自ゴールから離れた位置であり、きちんとポジションを取っていれば守備として十分なはずなのだが、あえて急いでボールを取りにいっているため、簡単にはずされて空いたスペースを突かれたり、敵の攻撃を急がせる結果となり、逆効果となっている
(5)その一方で、DFラインは総じて下がりすぎており、コンパクトでないため、有効にプレスがかからない
(6)日本チームは4-2-3-1のシステムを採用しているようだが、このシステムでサイドに張り付いているべきサイドハーフが中央にポジションを取りがちで、その分、常にサイドバックが上がりがちであり、バランスが悪くなっている
イタリアのサッカーは伝統的に守備的であり、その国の監督たちの指摘ではあるが、一方でオランダ戦の分析では、攻撃的な伝統をもつオランダチームでさえ(1)のディアゴナーレのポジショニングが忠実に実行されていることが示され、これらの守備戦術がイタリアだけでなくヨーロッパでセオリーとなっていること、対して日本チームが複数の試合でこれらの守備戦術を実行できていないことから、日本ではこのセオリーを育成年代から教え込まれていないだろうことが明らかにされている。
本書ではこれらを日本チームの戦術ミスと位置づけているが、私には逆に岡田ジャパンの取っている戦術がはっきり理解できた気がする。ディアゴナーレはともかく、イタリア人監督たちが無駄で無謀だといっているFWやMFのチェイシングは、あえて行われているのだ。日本チームは得点力に不安がある。したがって、なるべく敵陣内でボールを奪い、すばやく攻めたい。そのためにリスクを犯してポジションを崩してでも前へ前へとボールを奪いに行く、現在のプレースタイルになっているのだ。
岡田ジャパンの試合を見ていると、90分間常にガチャガチャと動き回っており、メリハリがない印象があって、どうしてなのだろうと思っていたのだが、やっと腑に落ちた気がしている。
だが、その戦術は本書で分析されたように、はっきり言って成功していない。ポジションを崩してはスペースを空けてしまい、そこを敵に衝かれては別のポジションの選手がカバーに回り、その結果として試合終盤には全員が疲れきってしまう。そしてそうなることをオーストラリアやオランダレベルのチームはわかりきっていて、冷静にゲームを進められている。あれだけ日本チームが運動量を費やしても、相手チームを慌てさせる場面はほとんどない。これでは勝利は遠いだろう。日本チームが持つ運動量をどこに使うかが問題だ。
FWにあえて敵DFラインをチェイスさせるのなら、MFは本来FWが位置すべきポジションを埋めるべく移動し、ボランチはさらにそのポジションを埋め、DFはさらに押し上げてそれらをサポートする、というように、より連動して動かなければ、FWのチェイシングは文字どおり無駄となる。空けたスペースを敵に衝かれたからそれをカバーするために運動量を費やすのではなく、最初から連動して動くところにまず運動量を使うべきだ。
岡田監督には、プレッシングサッカーの精度が高いヨーロッパなどの格上のチームに対して、同じようなプレッシングサッカーで対抗しても勝つことができない、という思いがあるのかもしれない。それを超えるものとして、運動量を駆使したチェイシングサッカーとでも言うべきものを志向しているのかもしれない。しかし、その戦術は2010年に入ってもまったく質の向上を見せていない。岡田ジャパンの前途は暗いといわざるを得ない。
【カテゴリ「本」の最新記事】