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「多聞寺討伐」このタイトル名をネットで見かけた瞬間、脳の奥底に小さく折りたたまれていた記憶が、一気に意識下に広げられ展開されるのを感じた。高校の図書室でたまたま見つけてむさぼるように読み、そしてその後文庫化されたのを大学の生協で我先に買い求めた、筒井康隆編の日本SFに関するアンソロジーについての記憶である。
徳間ノベルズから出ていた6冊のアンソロジー。「60年代日本SFベスト集成」を皮切りとして71年から75年まで1年ごとの日本作家によるSF短編を集めた短編集。その各短編の出来もさることながら、筒井康隆による各短編とその作家についての解説がすばらしく、その解説のほうを何度も何度も繰り返し読んだ。この解説をきっかけに読むようになった作家も数多い。山田正紀、田中光二、荒巻義雄、堀晃、藤原道夫、そしてもちろん、小松左京、光瀬龍。
とはいうものの、私は決して光瀬龍のいい読者ではない。宇宙年代記シリーズは大好きで、文庫化されたものはほとんど読んだし、その他にも記憶にある限りでは「百億の昼と千億の夜」「たそがれに還る」「喪われた都市の記憶」「東キャナル文書」そして短編集の「消えた神の顔」など。しかし光瀬龍は宇宙年代記シリーズ以外にも多くの長短編を著している。「夕ばえ作戦」のようなジュブナイルや本書に代表される時代SFもその一部だが、そちらはほとんど読んだことがない。例外は、表題作のような、筒井アンソロジーに収録された作品たちである。
「多聞寺討伐」という短編集は1974年に早川文庫から出ているが、今回の扶桑社文庫版は、早川文庫版の5短編を全て収録し、他の短編集に収められた時代SF短編、さらには単行本初収録短編も含まれる、充実した内容だ。最近日本SFをほとんど読んでいない私だが、「多聞寺討伐」というタイトルを目にしたときのショックをきっかけとして、SF読みとしてかつてお世話になった(作品を通じてという意味で)お返しをしなければ、という思いで、購入した。
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